電力王・福沢桃介を主人公に据えた伝記小説。桃介の生涯が手に取るように分かる小説です。小説であるが故に演出もあるため史実とは違うかな?という点が多少見受けられますが、エンターテイメント性を考えれば目くじらを立てることもなく、すんなりと受け入れられるかなと思います。
ただ1点、貞奴との濡れ場のシーンが描かれていますが、愛人とされる貞奴とはあくまでビジネスパートナーであったという声も聞きますから、そこは本当にそうだったのかなぁ…と少し疑問に思うところも。でもまぁ小説ですから。
個人的に一番盛り上がったところはもちろん大井ダムの建設やアメリカでの資金調達のシーンですね。あと岐阜県八百津町も何度か登場して、このシーンはあの辺りかな?などと想像を巡らせることが出来ます。
桃介が想像通りの豪快な人物であることが伝わる内容ですが、人間味あふれる桃介の一挙手一投足を全身で感じ取れるのは本当に読んでいて気持ちが良かったです。個人的にこの小説をベースに大河ドラマ化して欲しいなと思いました。
また当時「火主水従」であった発電を「水主火従」へと変えていったのは桃介を始めとする当時の電力会社ですが、終戦直後は再び「火主水従」へ移行されることになります。1950年代は「水主火従」となるものの、すぐに「火主水従」へと目まぐるしく変化していきます。その後、原子力発電が台頭しますが、2011年に東日本大震災による福島第一原発事故を契機として再び火力発電が主となる時代を迎えます。
ウクライナ戦争によってエネルギー問題がクローズアップされると、今度は原子力発電が再注目されるようになります。果たしてこの状況を桃介が見たらどう思い、どう動くのかな?とこの小説を見て思うのでした。
「水を光に変えた男 動く経営者 福沢桃介」の内容紹介
出版社からのコメント
内容紹介
電力王と呼ばれた明治・大正期の実業家、福沢桃介(1868~1938)。埼玉の貧農の次男として生まれた桃介は金持ちになることを夢見て慶應義塾に通い、福沢諭吉の娘婿となる。念願の米国留学も果たし、一流企業に就職、すべては順調にいくかと思いきや、行く手を病魔が立ちふさぎ、長期入院を与儀なくされる。ところが病床で株を覚え、大金持ちになる。その金を元手に自分の会社をつくるものの、義父である諭吉の裏切りに遭い、会社を畳む。そこから一転、相場の世界にはまり、兜町の風雲児となるが、相場師という虚業に嫌気がさし、電力事業という実業に目覚める。弟分の松永安左エ門、日本最初の世界的女優、川上貞というパートナーの助けも借り、木曾川に東洋一のダムを築く。
桃介は直感や感性の人で、物事を論理からのみ考えない。「二と二が合わさって四になるんじゃない、時には五にもゼロにもなるんだ」と言うのが口癖。水力発電を主戦場と決めたのも、事業の将来性はもちろんだが、生き物を殺さず、土や岩を苛め抜くだけで済む、という理由からであった。本書は、桃介の稀代の事業家、イノベーターとしての機略縦横の活躍ぶりにスポットをあて、その生涯を描く。
目次
- ライオンを背に
- 相場師
- 裏切り
- 兜町の飛将軍
- 牛に引かれて
- 名古屋
- 再会
- 河の恩
- 山人対平地人
- 木曽から関西へ
- 男伊達
- 水から太陽をつくる
著者について
荻野 進介
経営関係専門ライター
1966年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業。文筆家。PR会社の知性アイデアセンター、リクルートのシンクタンクであるリクルートワークス研究所などを経て独立。人事、雇用、経営分野で執筆。
登録情報
出版社 : 日本経済新聞出版; New版 (2022/1/25)
発売日 : 2022/1/25
言語 : 日本語
単行本(ソフトカバー) : 480ページ
ISBN-10 : 4532177170
ISBN-13 : 978-4532177171
寸法 : 18.8 x 12.8 x 2.5 cm
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