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三峡ダム決壊の噂は本当なのか!?

三峡ダム決壊の噂は本当なのか!?ダムログ
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噂なんだから決壊が本当なわけがないんですけどね。どうもダムログの時間です。

今年の梅雨は異常に雨が多く熊本県でかなりの被害があったのは周知のとおりですが、中国でも豪雨続きであちこちで河川が氾濫し日本同様に被害に遭われています。日本と中国両国において被害を遭われた皆さまに心よりお見舞い申し上げますとともに、一日も早い復興と、皆さまの日常が一日でも早く取り戻せるよう心からお祈り申し上げます。

さて、ここのところネットで騒ぎになっているのが、中国最大級のダムである三峡ダム決壊の噂です。Googleトレンドで「三峡ダム 決壊」で調べると6月下旬辺りから急速に増えているのが分かります。

これは各マスメディア(特に台湾系や反中国系のメディア)がこぞって三峡ダムが決壊するんじゃないかと煽り立てた結果です。それに呼応して日本のメディアも記事にしたり、いわゆるYouTuberが投稿するなどして、各SNSでも噂として蔓延する結果に。(順番はSNSが先だったかもしれません)

そこでダム愛好家の一人として、この噂が本当なのかを簡易的にではありますが検証してみたいと思います。本来なら現地に行ってこの目で見てくるのが一番確実です。ですが、この新型コロナウィルスが世界中で猛威を奮っている状況ですので、残念ながら現地に見学しに行くことも叶いません。

また、この噂は政治的な話が必ず介在しています。それもそうでしょう。列車事故が起きれば列車を土に埋めてしまったり、我が国日本を含めた周辺各国に軍事的脅威を及ぼしているような国です。いくらでも尾ひれをつけたくもなるでしょう。

しかし、ダムというのは万国共通の土木インフラです。それがいとも容易く決壊するなどということはあってはならないと思います。ですので、政治的な話は一切抜きにして過去に月刊ダム日本に組まれた特集記事やネットで調べられる限りの調査を行った結果をまとめたいと思います。

記事を書くにあたって前提条件を示しておきます。

  • 政治的な話は一切抜きにする
  • 噂話を結論にしない
  • 私自身は中国共産党を支持していないしもちろん党員でもない

特に最後は強く言っておきたいです。私は日本で生まれ日本に住む日本人ですし、生まれてこの方中国には一度も行ったことがありません。むしろ今から15年ぐらい前にサーバーを管理する仕事をしていた時に何度も中国からハッキングされるなどしたため、あまり良い印象を持っていないぐらいです。

その他、文中で「言っている人がいた」という表現をしている箇所がありますが、これは基本的にSNSでの発言を指します。本来ならエビデンスのためにSNSの投稿を埋め込んだりスクリーンショット画像を撮るべきでしょうが、個人攻撃が目的ではないためこの表現とします。

なお、三峡ダムが歪んでいる決壊していると信じてやまない人がこの記事を読んでコメントを投稿される際には、ネットの噂によるものではなく数値的・科学的根拠を示した上で投稿してください。噂を元にしたコメントだった場合は削除しますのでご承知おきください。

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三峡ダムの基礎知識

そもそも三峡ダムのことをよく知らないという人もいるでしょうから、基礎知識として解説したいと思います。当サイトでよく登場するダム諸元表ですが、日本と中国では表記が異なる場合があるので多少アレンジしています。

所在地中華人民共和国 湖北省宜昌市夷陵区三斗平
河川名長江(揚子江)
目的F(洪水調節、農地防災)
P(発電)
※その他水運も担う
型式G(重力式コンクリートダム)
堤高181m(日本大ダム会議)
堤頂長2,309.5m(中国大ダム会議)
堤体積16,000,000㎥(ダム便覧)
総貯水容量39,300,000,000㎥(中国大ダム会議)
洪水調節容量22,150,000,000㎥(中国大ダム会議)
常時満水位EL.175m(ダム日本)
洪水期制限水位EL.145m(ダム日本)
着手年1993年
竣工年2009年

堤高については185mという表記が一部でされていますが、中国大ダム会議のPDF資料によれば185mは「crest elevation」の表記がされていますので、堤高ではなく天端標高(EL)となります。

堤体が歪んでいるのは本当なのか?

まずこの写真は1年以上も前から言われている「Googleアースの写真を見ると三峡ダムが歪んでいる」というスクリーンショット画像です。

三峡ダム旧Googleアース写真その1
三峡ダム旧Googleアース写真その1
三峡ダム旧Googleアース写真その2
三峡ダム旧Googleアース写真その2

下記画像が現在(2020/7/27)の三峡ダムにおけるGoogleの空中写真です。現在は「画像の歪み」が修正されています。3Dはともかく平面のものについて、本来空中写真はレンズの中心に光束が集まる中心投影となるため、レンズの中心から対象物までの距離の違いによって位置ズレが生じてしまいます。これをオルソ加工といって真上から見たような位置ズレのない画像に補正する必要があります。過去の空中写真はこの加工が甘かっただけです。

以前のGoogleの空中写真はあちこちで歪みがありましたが、現在ではかなりの地点で修正されています。それでも修正が追いついていない箇所があります。下の画像は2020/7/28現在Googleに掲載されているの瀬戸大橋の一部を示した空中写真ですがかなり歪んでいます。しかし瀬戸大橋では橋自体に問題があるという話は聞いたことがありません。

瀬戸大橋のGoogle空中写真
瀬戸大橋のGoogle空中写真

ですが「ダムが歪んでいる」「決壊する」と思い込んでいる人には全く効果がなく、瀬戸大橋は画像の歪みであり、三峡ダムは実際の歪みだという謎理屈だそうで。。。(下の画像はブロックしているため文字が薄くなっています)

ダムペディアFacebookページに投稿されたコメント
ダムペディアFacebookページに投稿されたコメント

そして、なにより現地の通信会社中国電信(チャイナテレコム)が中央電視台(CCTV)傘下の動画プラットフォーム「央視頻」にリアルタイム配信を行っており、現在の三峡ダムの状況がつぶさにわかるようになっています。

それも右岸・下流面・上流面といろんなアングルから配信が行われています。以下の動画は私が各アングルをスクリーンショット動画として取り込み編集してつなげたものです。

これを見る限り、Googleアースのような歪みは見えませんし、ましてや決壊してるようにも決壊しそうにも見えません。

「これは数ヶ月前の映像だ!」とか言ってる人もいるようですが、毎日のように見ていても堤体が変形するような変化や兆候はずっとありませんし、Windy等を見ての現地の天候と映像も合致していることは確認しています。したがってデビッド・カッパーフィールドのイリュージョンみたいなことはありません。

そういえば、通信環境が悪化したのか解像度が一時的に下がる時があり、それによってクレーンや電線の一部が消えたかのように見えただけなのに、それを隠蔽している!フェイク動画だ!と言う人もいました。

ライブ配信動画や後述の現場からのSNS動画も、CGだの合成だの言う人もいるようですが、こんな動画をCGや合成で制作できる人は今ごろピクサーやポリゴン・ピクチュアズなどの著名なCG制作会社からオファーをいっぱいもらっていることでしょう。

冷静に動画を見れば分かることなのですが、中国共産党というフィルターが掛かり、脳内で自分の都合が良いように解釈されてしまうようです。

中国政府が認めたとされる歪みは本当なのか?

上記の歪みを中国政府が認めたとされるニュースが色んなメディアから配信されました。

水の重みでコンクリートダムが歪んでしまったようで、中国公式メディアと中国政府もこの歪みについて認めているという。

ニコニコニュース
決壊の危機と言われる中国の三峡ダム 中央部分が歪みだす 中国政府「なんら問題無い」
ゴゴ通信の元の記事はこちらからご覧ください 連日の大雨により中国の長江中流域の湖北省にある大型重力式コンクリートダム、三峡ダムが観測史上最も高い水位を記録した。 それだけでなく警戒水位を6メートルをこえており、上空から見たところダ…

映像を見ても歪んでいないのに何を言ってるんだと思いましたが、これは誤訳や誤認識ではないかと考えます。実はダムは歪むのではなくたわみます。この「たわみ」を「歪み」と誤認識した可能性です。

これはどういうことかと言うと、ダムの堤体は水圧だけでなく気温などに影響を受け、ダムにもよりますが数cm~10数cm程度たわみます。下図はそのたわみ量を示すグラフで、縦軸が貯水位、横軸がたわみが生じた量を示します。

たわみ量グラフ
たわみ量グラフ(出典:国土交通省 湯西川ダム管理の第3期移行について)

ダムには様々な計測装置がありますが、「たわみ」を計測するための装置がプラムラインと言います。基本的にたわみは1年を通して行ったり来たりというような動きをしますが、堤体に異常が出たときには明らかに「いつもと全く違うグラフ」となるため、定期的にダムでは数値を計測しています。

計測装置についてはあくまで日本のダムでの話しで、三峡ダムの詳細な計測状況については不明な点がありつつも、堤体がたわむこと自体は常識であり、「たわみ」を「歪み」と誤認識した可能性はかなり高いものと思います。

先日国土交通省庄内川河川事務所がこんなツイートをしていましたので、こちらをご紹介したいと思います。プラムラインやたわみについてかなり理解しやすい内容かと思います。

ちなみにダムによっては「たわみ」を「ひずみ」と言う場合もあります。

発電専用だから洪水調節しないというのは本当なのか?

三峡ダムの目的に洪水調節があるのは前述のとおりです。三峡ダムは堤体の左右両岸にそれぞれ発電所が設置されており、中央部分が洪水吐区間となっています。

三峡ダムのモデル(出典:Wikipedia・CC BY-SA 3.0・当サイトで一部加工)
三峡ダムのモデル(出典:Wikipedia・CC BY-SA 3.0・当サイトで一部加工)

その洪水吐区間は下図のような断面になっており、堤頂付近に表孔(クレストゲート)が22門、中腹辺りに深孔(コンジットゲート)が23門あり、それぞれが互い違いに設置されています。

洪水吐区間断面図(出典:中国大ダム会議資料PDF)
洪水吐区間断面図(出典:中国大ダム会議資料PDF)

ニュース映像などで勢いよく放流している写真や動画が流れますが、それはコンジットゲートからの放流です。つまりこれは洪水調節中という状況です。よって三峡ダムが洪水調節をしないということは嘘です。

三峡ダムコンジットゲート放流写真
三峡ダムコンジットゲート放流写真

また、三峡ダムでは水位と流入量と放流量が長江水文網のサイトで開示されており、巨大掲示板5chの有志の方々がそのデータをスクレイピングしてハイドログラフとして加工・公開されています。

これを見る限りにおいても放流量が変化していることからも洪水調節を行っていることは明らかです。

ちなみにデータが欠測することがあるため「隠蔽している!」と騒いでいる人もいましたが、データの欠測なんて日本の水位観測所でもよくある話ですし、グラフの通り時間をずらせばデータが取得できていることは明らかですので無視していいでしょう。

売電してお金儲けをするため発電しか行っていないのは本当なのか?

前述のとおりです。洪水調節を行っていますから、発電しか行わないということはありえません。

逆に「発電していない」という謎発言をする人もいましたが、下の動画をご覧ください。

三峡ダムの夜景動画ですが、手前の水が日本のダムでも良く見る「発電所で働いてきた後の水」の動きに見えます。

なぜこう動くのかというと三峡ダムの発電所から放流された水は水中で放流されるからなのです。下の図は発電所区間の断面図で左がダム湖側、右が下流です。ダム湖から取り入れられた水は下流側の建屋内にある水車を通って発電に利用され、水中で下流へと放流されます。この放流された水が上の動画のようにゆったりと流れるのです。

発電所区間断面図(出典:中国大ダム会議資料PDF)
発電所区間断面図(出典:中国大ダム会議資料PDF)

クラックやひび割れが生じているのは本当なのか?

どれも現地写真がない時点で眉唾ものなのですが、クラックは幅0.2~0.3mm以下のヘアクラックであり、ひび割れは目地ではないかと考えます。

ヘアクラックは製品がコンクリートである以上は必ず生じる現象ですし、これが生じていたとして直ちにダムの品質や構造に影響があるものではありません。

また、ダム日本によれば三峡ダムの本体部には17~21mの6区分に振動カッターで目地を設けているとのことです。目地は鉄道でいうレールのつなぎ目のようなもので、コンクリートの膨張や伸縮などを許容範囲内で発生させることで応力を軽減させることでむしろクラックを防ぐことになります。

振動カッターによる目地切り(出典:ダム日本)
振動カッターによる目地切り(出典:ダム日本)

ちなみにこのダム日本に掲載されている写真は三峡ダムにおける工事写真です。

三峡ダムの地盤は石灰岩で弱いというのは本当か?

どこから出た情報なのか謎ですが、SNSや動画サイトでよく言われている噂です。

これもダム日本によれば三峡ダムサイト一帯に露出しているのは花崗岩だそうです。基盤岩も中・粗粒花崗岩と偉晶岩(ペグマタイト、巨晶花崗岩)、輝緑岩や岩脈が主として、常に両者が密接しているそうです。

どこにも石灰岩という記述はなく、むしろ良質のようです。

基盤岩についての記述(出典:ダム日本)
基盤岩についての記述(出典:ダム日本)

地質条件も良好で、良質岩体は約98%を占めているんだとか。

ただし風化と除荷の影響で部分的に断層や亀裂面に広がって透水性が増えたり、微風化帯の中にも透水性が中規模から大きい岩体が主として深さ20mの範囲内にあって、これらが貯水後に水の抜け道となる可能性があるとのことでした。

しかしこの問題は後述のグラウチングによって解決されます。

三峡ダムがひっくり返るというのは本当か?

海の防波堤が津波によってひっくり返る映像を見たことがある方もいるかと思います。

ひっくり返った防波堤
ひっくり返った防波堤(出典:国土交通省「防潮堤等の地震・津波による被災事例と耐津波設計を行う上での留意点」)

「防波堤がひっくり返ることがあるんだからダムだってひっくり返る」と言っている人がいましたが、そもそも防波堤とダムでは造り方からして全く違います。また、本体に使用するコンクリートの量も全然違いますし、それぞれの環境も考え方も全然違うため比較にもなりません。

さらに基礎岩盤にはカーテングラウチング(岩盤の隙間などにカーテン状にセメントミルクを注入する工事)が施されています。これによってダム湖からの遮水性を高めて揚水対策をしています。

カーテングラウチング
カーテングラウチング(出典:ダム日本)

ダム日本によれば工事誌などの文献にはかなり綿密にカーテングラウチングならびにコンソリデーショングラウチングが施工した記述があり、以下のようにまとめられていました。

グラウチングについてはあの堅硬なダムサイトでかくも細やかなことが行われていることは日本では考えられないことで、三峡ダムにかける中国の面目をかけた意気込みを感じた。

ダム日本No.842「文献に見る三峡ダム建設・その14 本体工(4)」より

日本人のダムの専門家が見ても日本よりもしっかりと施工されているということです。

最後に

あれこれとまとめてみましたが、つい先日三峡ダムに行って取材された中国人の方がTwitterでほぼリアルタイムでレポートされていました。これだよこれ、この映像を待ってたんだ!という感じで喜々として拝見しました。

すべてはこの動画に集約できるかと思います。歪んでもいませんし決壊してもいませんし決壊しそうにもないことは火を見るよりも明らかです。

また、この方は三峡ダムのエンジニアの方にもインタビューするなど積極的に活動されています。日本のダムでもよく「ダムが放流したから下流が水没した」と言われることがしばしばありますが、放流によってではなく洪水によるものであるということや、そもそも今回の中国の豪雨は降雨エリアがかなり広範囲であったことが原因であるなど、分かりやすくコンパクトにまとめられているかと思います。

さらには三峡ダム近辺の宿泊や食事についてもツイートされていますので、三峡ダム見学の際に参考になるかと思います。

ちなみに「三峡ダムで撮った写真をSNSにUPすると現地警察に拘束される」というのも噂だったようで、このAちゃんさんも「全然そんなことない」と一刀両断。中国にまつわるエトセトラはすべて噂で成り立っているのかもしれません。それはある意味においては仕方ない面もありますが、フィルターを掛けずにクリアな目線で見たいものですね。

三峡ダムは国の威信をかけて建設されたものだと思いますが、なにより土木技術者の魂が込められたものだと思っています。また、工事は中国単独で行われていますが、日本を含めダム先進国の技術や理論も多く流用・転用されています。実は建設機械の一部もアメリカのものが使われていたりします。地質調査は戦前はソ連が、終戦直後はアメリカが行った履歴もあります。

万が一にもということがあれば日本国内だけでなく世界中のダム建設、いや土木全体の根幹を揺るがしかねません。だからこそただの噂に基づいた安直な発言は慎むべきだと考えます。

ともかく三峡ダムは歪んでいません。決壊もしていません。決壊しそうにもありません。

以上です。

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