取材日:2023年8月9日(水)
前日に『くろよん60周年限定特別企画「黒部ダム見学会」』に参加して、終わった後に超久しぶりに大町ダムを見学し、その日は大町駅前のビジネスホテルに一泊。翌日は未訪問の高瀬ダムを目指す予定でしたが天候が怪しく徒歩で行くには危ないと判断し、長野県企業局が主催していた「ぐるーっと信州ダムめぐりダムスタンプラリー2023」に急遽参戦することにしました。
スタンプラリーの模様はこちらのページをご覧ください👇️
大町市からのスタートとなりますので、スタンプラリー最初のダムは奥裾花ダムにしました。ただここではスタンプはもらえず、下流の裾花ダムでもらうことになります。スマートフォンを使ったGPSの位置情報とデータ通信が必要になるデジタルスタンプラリーになりますので、携帯電話の電波が届きにくかったり通行止になりやすかったりする奥裾花ダムでは現地で取得するようにせず、裾花ダムにしたのだと思います。
奥裾花ダムは長野市鬼無里(きなさ)にあります。かつて上水内郡鬼無里村だった頃、ぼくは小学生の頃に家族旅行で鬼無里を訪れていますが、変わった地名だなと父親と会話した記憶が今でも蘇ります。ただ、その時は奥裾花ダムには訪れることはありませんでした。
まずは左岸から

管理所ですが、下流にある裾花ダム管理事務所の出先機関のような位置づけのようです。

天端の入口にはパイロンが置かれており、立入禁止!?と思いましたが、職員さんに伺ったところ単なる車止めとしてのパイロンだったようです。ついでに下流側からアプローチできるか聞いてみましたが、そちらは完全に立入禁止とのこと。残念。森と湖に親しむ旬間などの公式見学会であれば、堤体下流面が拝められると思います。

大昔に地殻変動があったのか褶曲(しゅうきょく)と思われる岩が右岸側に見られます。

前述の通り下流に通じる道は立入禁止のため、普段から堤体下流面が見えるポイントはここぐらいになります。

夏期は水位が低いため壁感を強く感じさせる堤体上流面です。

天端上流側へ
何も着飾らないシンプルな取水設備の建屋です。THE 県営。

前日までの雨の影響か貯水池はかなり濁っていました。

スクリーンの上部までずいぶんと泥汚れが付着していますので、かなり水位が上昇していたことが窺えます。ここではダム下流直下にあるダム式発電所の奥裾花発電所(きなさ発電所)に4.00㎥/s、奥裾花第2発電所(水芭蕉発電所)に2.53㎥/sの量を取水しています。

取水設備の巻上機室の窓ガラス越しに内部が見えます。反射きついけど。

天端からクレストゲートの上流側を見ています。ゲートそのものは見えませんが、土や流木が見え、さらにそこから草が生えてしまっています。これはほとんどクレストゲートが使われていないことの証左でしょう。

結構な急坂のインクラインです。

右岸周辺
裾花ダム管理事務所のTwitterアカウントでたまに右岸から堤体を見下ろすようなアングルの写真が投稿されるんですが、もしかしてこの上部から撮影してるんですかね。

なぜか板が嵌められていますが、窓などの開口部が割れたり壊れたりしたんでしょうか?

艇庫の内部も窓ガラス越しに確認できます。反射きついけど。

特筆すべき点もない天端ですが、ちょっと気になったのは奥裾花渓谷につながる道が天端よりもかなり上にあること。天端をこの高さまで持ってくれば、もっと容量を稼げるのになぁ…と思ったのですが、恐らく渓谷が水没するエリアが広くなってしまうことと、建設コストが上がってしまうため、この堤高に収まったのではないかと思います。

発電のための貯留量は洪水期間(6月20日から9月30日まで)は15,000㎥、非洪水期間(10月1日から6月19日まで)は2,700,000㎥と、夏場は文字通り桁違いに容量を空けているのが分かります。

左岸同様、右岸から見る堤体下流面はこれが精一杯。(ただ道路側に見るポイントが実はあるっぽい)

天端(下流側)へ
下流側はクレストゲートの巻上機室が天端より低い位置にあるためか、シンプルなつくりになっています。

ウォールボックスの扉に養生テープが貼られ、「配管漏れの為使用禁止」とあり「引いたときのみ裏側でもれる。」と書かれていますが、オイルでも漏れてしまったんでしょうか。

クレストゲートに通じる階段梯子。

直近で大雨があったためか減勢池に貯まった水がすっかり茶色く濁っていました。

手前にあるのがダム建設とともに設置された奥裾花発電所(愛称:きなさ発電所)で、自己託送の仕組みを用いて長野県庁へ供給しているそうです。これにより庁舎の使用電力100%再エネ化を実現しているんだとか。
奥にある新しい建屋が奥裾花第2発電所(愛称:水芭蕉発電所)で、平成29年4月運開と比較的新しい発電所です。奥裾花発電所で利用しきれずダムから放流していた水を有効活用する形で建設されたのだそうです。

左岸の周辺を散策
奥裾花ダムから上流は長野県が指定した名勝の奥裾花渓谷があります。現地看板によると「この峡谷一帯は、第三紀層の日影砂岩礫岩層の中をたち割って裾花川が南流するため全長約5kmにわたって比高100mの絶壁が連続している」のだそうです。

日影向斜・ケスタ地形・生痕化石・千畳敷岩・ハチノス状風化といった学術的に貴重なものも多いのがこの峡谷の特徴なのだそうです。また、「21世紀に残したい日本の自然百選」「長野県自然百選」に選定されているそうです。
ですが、ここから先は通行止となっていて、それらを見ることはかないませんでした。

奥裾花渓谷入口には歌碑が建てられています。
たづねばや 心のすゑは しらずとも
「浦見の山」歌碑
人をうらみの 山のかよひぢ
鎌倉時代に藤原長清が撰集した夫木和歌抄(ふぼくわかしょう)に収められた従三位為実(じゅさんみたねざね)の歌だそうです。歌論書「八雲御抄(やくもみしょう)」によれば「うらみ(浦見)の山」とは信濃にあるとされており、善光寺道名所図会によれば浦見の山は土倉村の峠を越えて戸隠山を右に見て(つまりこの辺り)、鬼無里から越後へ抜ける道から見えるとされています。

歌の意味は「人の心はどのように移ろっていくか分からないもの。たとえ行く先の道が険しく、辛く、厳しい現実があるとしても、素っ気なくなってしまった貴方の元を私は訪ねようと思う」というような意味だそうです。
ダムへの道も険しくても訪ねたいものですよね(違
歌碑からスロープ状になっている箇所を降りていくと、奥裾花大橋を見上げられるスポットに出てきました。さらにこの先スロープになっていますが、網場を固定している箇所だったようです。

左岸上流側が少し高台になっていて、そこから堤体上流面を見ることできました。

左岸の道路が高い位置にあるので、ダムが水を堰き止めている感を感じることができますが、水位が低いためそこまで感じられないかもしれません。それでもなかなか良いアングルです。

アクセス路は土砂崩れで通行止になることがあるため、気をつけなければなりませんが、機会があればぜひ下流から仰ぎ見てみたい奥裾花ダムでした。
奥裾花ダム諸元
所在地 | 長野県長野市鬼無里上土倉 |
河川名 | 信濃川水系裾花川 |
目的 | F(洪水調節、農地防災) W(上水道用水) P(発電) |
型式 | G(重力式コンクリートダム) |
堤高 | 59m |
堤頂長 | 170m |
堤体積 | 152,000㎥ |
流域面積 | 65km2 |
湛水面積 | 30ha |
総貯水容量 | 5,400,000㎥ |
有効貯水容量 | 3,300,000㎥ |
ダム事業者 | 長野県 |
本体施工者 | 間組 |
着手年 | 1969年 |
竣工年 | 1979年 |
ダム湖名 | ― |
その他の設備/所感
駐車場 | ○ |
トイレ | × |
公園 | × |
PR展示館 | × |
釣り | ○(禁漁区を除く) |
展望台 | × |
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