取材日:2019年9月18日(水)
試験湛水中に台風19号による大雨で一気に水を貯めた八ッ場ダムですが、10月15日(火)についに 平常時最高貯水位(常時満水位) まで到達しました。実は試験湛水が始まる前の9月18日に見学させていただく機会を得ていましたので、その模様をレポートしたいと思います。
※許可を得て撮影しています。
※国土交通省の職員さま同行のもと、安全に配慮して見学させていただいております。
左岸のやんば見放台
八ッ場ダムは1年1ヶ月ぶりの訪問です。集合時間まで時間がありましたので、先に左岸の展望台「やんば見放台」からダムを見学します。
やんば見放台より堤体を望む
台風の1ヶ月前はこんな感じでした。試験湛水前ですから当然水は吾妻川を流れてる程度の流量しかありません。
やんば見放台より上流を望む
1人のおばあさんがカメラを水没予定地に向けていました。もうじきこの風景も水没してしまうんだな、と私もこの時思っていました。
やんば見放台より旧国道と旧吾妻線跡を望む
旧国道の橋や旧吾妻線の鉄橋もそのまま水没することになります。
八ッ場大橋よりバンジージャンプ台と堤体を望む
この日の八ッ場バンジーはあいにく営業しておらず、ジャンプすることは叶いませんでした。残念。
また、この日は「みんなが資金提供してくれたら飛ぶよ!」と宣言したのですが、結局誰も資金提供してくれないまま満水になり営業を終えてしまいました。残念。
右岸より参加者の様子
時間になりましたので、集合場所の右岸駐車場に向かいます。参加者が続々と集合し、その後やんばツアーズのコースを辿って堤体に向かいます。
右岸のリムトンネル
岩盤の隙間にセメントミルクを注入して水を通しにくくするリムグラウチング作業のためのトンネルです。左右両岸で約300mもあるそうです。
右岸の岩盤
右岸のリムトンネルの横に露出している岩盤です。丈夫そうということしかわかりませんが、八ッ場ダムの堤体を支える重要な岩盤です。
右岸より天端を望む
打設が完了し、ついに姿を現した八ッ場ダムの天端。実際にはこの後アスファルトなどで舗装がされるため、このままの姿にはなりませんが、一足先に歩ける幸せを噛みしめています。
天端より上流を望む
天端から上流を見る日が来るなんて…!
エレベーター塔
まだまだ絶賛工事中のエレベーター塔です。見学者も使える多目的用と点検用のエレベーターがそれぞれ取り付けられるそうです。
クレストゲート
こんな間近に新品のクレストゲートが。クレストゲートはバラバラの状態で届き、現地で組み立てられたのだそうです。
クレストゲートの下部
クレストゲートは何度も動作させて点検していました。
クレストゲート(下流側)
緑色なのは景観に配慮して決められたそうです。また、大滝ダムと同じく油圧で動作します。今後はワイヤー式ではなく油圧式が主流になっていくのかもしれませんね。
ワイヤーロープウィンチ式のゲート巻上機
あれ?じゃあこれは何?となるかと思いますが、こちらは予備ゲート用の巻上機です。手前と一番奥にある淡い黄色が常用洪水吐用の予備ゲート巻上機、真ん中の青色が水位維持放流設備用の予備ゲート巻上機です。色でわかるようになってるんだそうです。ちなみに今は巻上機が剥き出しになっていますが、これから建屋がつくられることになります。
常用洪水吐の予備ゲート
先ほどの淡い黄色の巻上機の下に、この予備ゲートが繋がっています。さらにその下にあるグレーの鉄骨には、堤内仮排水路を閉塞するためのゲートが据えられており、試験湛水の準備が着々と行われています。茶色の鉄骨は工事中に自走式のクレーンなどが通るために架けられた仮設の橋の橋脚の一部です。このまま沈めてしまうんだそうです。
天端より減勢工を望む
下流側はまだまだ工事中でした。減勢工に仮設の橋が架かっていますが、その手前に見学と管理用の橋が架けられるそうです。また、左岸では発電所を建設しています。
選択取水設備内部
おびただしい数の配管が内部にあるのがおわかりいただけますでしょうか。八ッ場ダムの選択取水設備は、殿ダムや湯西川ダムなどで採用実績のある連続サイフォン方式です。これも時代の流れですね。
プラムライン上部がこの辺りにあるらしい
機材で隠れてしまっていますが、この下にプラムラインがあるそうです。
右岸のフーチングを降りる
萩原さんの動画で狭そうなフーチングだなーと思っていたのですが、本当に狭かった(笑) この狭さからすると恐らく普段の見学用に開放はしないかと思われます。
監査廊
プレキャストで組まれた綺麗な監査廊です。残念ながら今回監査廊はチラ見でした。森と湖に親しむ旬間など正式な見学会開催時の見学に期待ですね。
下流から右岸のフーチングを望む
運動不足のせいで一番下まで降りてきた時は膝が大爆笑していました。
右岸下流より堤体を望む
まだ工事中ではありますが、下流のこの姿が観られて本当に良かったです。
仮設の橋より減勢工を望む
規模の大きな減勢工です。 減勢池の左右両岸の壁面は一般的には垂直に切り立っているものだと勝手に思っていたのですが、減勢池方向に向かって斜めになってるんですね。
下流の仮設の橋より堤体を望む
これです。これが観たくて4時間以上かけて車を走らせてきたのです。まだ工事用の足場が組まれていたりしますが、見事なまでにシンメトリな下流面です。
堤内仮排水路の吐口
左岸側の常用洪水吐下部に堤内仮排水路の吐口があります。上流側を閉塞した後に、ここもコンクリートで埋めてしまうそうです。
利水室内へ
仮設の橋を渡って階段を降り、利水室内へと入ります。
利水室内にある利水放流設備
ダム湖から取水した水は、ここで群馬県企業局の発電と吾妻渓谷の景観を保全しつつ下流の都市に水道や工業用水として供給されます。
群馬県企業局の八ッ場発電所
利水放流設備の先では半地下式の発電所を建設中です。完成すれば以下の規模の発電所になります。
最大出力:11,700kW
年間発電電力量:約4,200万kWh(一般家庭約12,000世帯分の消費電力量)
最大使用水量:13.60m3/秒
有効落差:105.80m
堤体壁面クリーニング中
高圧洗浄機で堤体壁面の汚れを洗い流していました。さすがにケルヒャーではないと思いますが、見る見るキレイになっていくので見ていて気持ちがいいです。
バスで上流側へ移動
ひととおり下流面を見学し終え、今度はバスで上流側へ移動します。
湖底から八ッ場大橋
バスの車窓から八ッ場大橋が見えます。当然ここも水没してしまいます。
旧吾妻線
旧吾妻線が見えてきました。移動中の揺れるバスの中であまりいい写真ではありませんが、旧吾妻線の手前には旧国道が見えています。10年前に初めてこの地を訪れた時はここを通ったなぁ…としみじみ。
係船設備
こちらは係船設備。八ッ場ダムはインクライン方式ではなく浮桟橋方式となるようです。それにしてもこうして見るとまるで滑り台か小型のスキージャンプ台のようですね。
上流側の堤体を望む
下流側も良いですが、上流側は湛水すると見れなくなる(立ち入りすらできなくなる)ので貴重なショットと言えるでしょう。
堤内仮排水路締切用のゲート
試験湛水開始時に堤内仮排水路を閉塞するために降ろされるゲートです。
仮締切堤より上流を望む
右に見えるコンクリートの構造物は仮排水トンネルの呑口です。この景色ももう最後です。写真に収めるだけでなく、目や心にも焼き付けておきます。私は地元の人間ではありませんが、ここがもうじき水没するとなると感慨深いものがあります。
台形CSGの仮締切堤
雨などでかなり削れてしまっていますが、役目を終えた台形CSGの仮締切堤の天端です。
上流側の堤体での作業中の風景
仕上げなのか点検なのか、作業員の方がゴンドラに乗って作業していました。
クレーンで吊るされたゴンドラ
こんな感じで吊るされているのですが…すごい。けど、作業員の方にとっては日常なのでしょうね。
仮締切堤と堤体の間
本体建設時に川の流れを迂回するために造られた台形CSGの仮締切堤ですが、穴が開けられ、そこを川の水が通って堤内仮排水路に流れていくのが分かるかと思います。
左岸のアバットメント
人物との比較で巨大さが伝わりますでしょうか。ここだけ見てもカッコいいですね。しっかりと堤体を支えてる感というか、岩盤を抑え込む感というか、パワーを感じさせます。
管理所2階ホール
上流側の見学を終え、左岸にある管理所までバスで移動しました。管理所の中はいわゆる新築の匂いが漂っていました。将来的に1階やこの2階のスペースは展示スペースとなり、広報の施設としての役割を担うことになるそうです。実は今回はこの展示内容について意見交換会が行われ、愛好家として色々意見を出させていただきました。内容は秘密ですが採用されたら嬉しいな。
2階展示スペースから吹き抜け部分と南側の窓を望む
この窓の外には左手に堤体があり、湛水すればダム湖が広がる景色となります。
その他、管理所内では着々とダム管理のための準備が進められているようでした。実際に見学の後に襲来した台風19号の際にはここが主戦場となったことでしょう。
八ッ場ダムは2019年10月15日に予定よりもかなり早く平常時最高貯水位(常時満水位)に到達し、ここからまた最低水位まで下げていき、それでようやく試験湛水が完了となります。天端や下流ではまだまだ工事が行われていますが、竣工まで間もなく!といった状況です。
八ッ場ダムは長い反対運動と民主党政権による建設中断、そして再開を経てようやくダムとしての役割を本格的に担っていきます。その前にいきなり台風19号によって実践投入されてしまうという話題に事欠かないダムですが、今後も治水利水に活躍する姿を見守り続けたいと思います。
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