取材日:2014/08/17(日)
1泊2日の家族旅行で富山の黒部ダムや美ヶ原高原美術館などを訪れた後にやって来ました南相木ダム。白く輝く石灰岩のリップラップがまるで白亜の居城のようで聞きしに勝る美しさです。南相木ダムは揚水発電が行われる神流川発電所の上池となります。(ちなみに下池は群馬県側にある上野ダムとなります)
神流川発電所は1号機(最大出力47万Kw)が平成17年(2005)に運転を開始し、2号機(47万Kw)が平成24年(2012)に運転を開始していますが、3~6号機(188万kW)は令和4年(2022)以降に運転を開始する予定となっています。全機が運転を開始すれば282万kWと揚水発電としては世界でも最大級の規模になります。
下流より洪水吐と堤体を見る
南相木ダムは本当に山奥にありますが、到着した時に見える堤体は感動そのものです。手前に地山に乗った洪水吐、奥に白亜の堤体とこんな景色は日本中探してもここだけです。同じロックフィルダムの奈良俣ダムは堤体の真横に洪水吐がありますが、それとはまた違った風情を醸し出しています。
そしてなんとこの日は放流しているではありませんか!(…あとでネタばらしします)
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副ダムと導流壁
洪水吐ひとつとっても機能だけでなく見られることを意識して設計されているように感じます。あるいは機能を追求した結果、デザインが洗練されたのかもしれませんが、導流壁の末端をわざわざ細くしているのは美しく見せるためという設計者の意図が垣間見えます。
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美しくアールを描く導流部
この導流部のアールですら美を感じさせます。流紋もキレイに出るように設計されていたりするのでしょうか。
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南相木川バイパストンネル出口
南相木ダムの河川は南相木川ということになっていますが、実際には水利権などの問題からダム湖には直接流入させず、バイパストンネルを通って下流に放流させているとのことでした。つまり神流川発電所は純揚水式発電ということになります。(例外的に増水時は貯水池に流入するとのことです)
下の写真はそのバイパストンネルの出口になります。出口に暖簾のようなものが垂れ下がっていますが、あれは何でしょうね。
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下流より洪水吐と堤体下流面を見る
下流にも立ち入ることが可能ですが、こんな景色は他のダムではなかなか味わえないと思います。
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下流の公園「ウズマク広場」
堤体の下流側にはランドスケープアートとしてウズマク広場という名称の広場が広がっています。洪水吐のデザインもそうですが、完全に訪問者に見せるためにデザインされた広場です。発電専用のダムというと機能のみを追求した無骨なものが多い中、アート性やデザイン性に特化させている点はとても珍しいと思います。
一番右のコンクリート構造物は導流壁で、その隣りにあるものは「ラセン」と呼ばれるトイレと展望台が一体になったものです。
なお、このウズマク広場は2006年度の建築・環境デザイン部門においてグッドデザイン賞を受賞しています。ディレクターは小宮功建築設計事務所の小宮功氏、デザイナーは同小宮功氏・現代美術作家の笹口数氏、ランドスケープアーキテクトの古内時子氏。
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ラセン(トイレ・展望台)
こんなデザインのトイレは他のダムでは見たことがありません。さらに環境に配慮したバイオトイレになっています。
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堤体下流面を見る
整然と敷き詰められた石灰岩のリップラップが見惚れてしまうほどにとても美しいです。芝生もきれいに整えられています。
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句碑
南相木ダムは堤体そのものがあまりに美しいため、こうした石碑を見逃してしまいそうですが、デザインだけでなく文学的なものもダム周辺に点在しています。
悠久の時経(へ)し石の フィルダムは 造りし人の魂(たま)と輝く 南相木ダムに携わった すべての人々に捧ぐ 丹治 富美子
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謎のトンネル入口
洪水吐直下に謎のトンネルの入口がありました。石灰岩で囲われて周辺とのデザインに一体感があります。点検用のトンネルでしょうか。それとも監査廊につながっているのでしょうか。
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トンネルといえば近くに「御巣鷹山トンネル」という一般人は通行ができないトンネルがあり、サージタンクもひっくるめて人体実験だの日航ジャンボ機墜落事故が云々かんぬんと陰謀論者の格好の餌食になっていますが、あれは共用されていないただの東京電力専用の管理用トンネルなだけです。
ちなみに上野ダムをスタート、南相木ダムをゴールとしたランニング大会が開催されることもあり、そのときにはこの御巣鷹山トンネルがコースになるそうので気になる方は参加してみてはどうでしょうか。
それにしてもこのトンネルが共用されれば上野ダムとの往復がとても便利になるのですが、管理上の問題から難しいのでしょうかね。
右岸ダムサイト(天空の石広場)
下流のウズマク広場をひとしきり堪能したあとは天端レベルまで移動しました。「天空」なのは天端標高が1,532mと日本で一番高い位置にあるダムであることからその名が付けられているようです。
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右岸より天端を見る
天端は自動車の通行はできませんが徒歩での散策は可能です。ダム湖も1周できるようです。
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右岸天端より堤体下流面を見る
リップラップが本当にキレイですね。前述でも「整然」と表現しましたが文字通りだと思います。しかも白い。
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天端よりダム湖を見る
ダム湖の水もとてもキレイです。
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天端よりダム湖側の洪水吐を見る
南相木ダムの側水路式の洪水吐となっています。
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ダム湖側の洪水吐
あれ?下流から見て越流してると思ったのにしてない!?
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越流していない理由
洪水吐の越流堤から水が越流しておらず、下流で見たように水が流れていた理由は、管理橋の脇にリムトンネルか沢から引いたパイプから水が出ていて、それが越流しているかのように見えるだけなのでした😓
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左岸リムトンネル
こちらのポータルは下流で見たような謎のトンネルのように石灰岩で周囲が囲われておらず、化粧パネル?が施工されているだけでした。法面は石灰岩になっていますね。
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タイヤモニュメント
ロックフィルダムにはよくこうしたタイヤモニュメントが設置されていますが、南相木ダムでは人の多そうな右岸ではなく左岸に設置されています。なお、90tダンプのタイヤだそうです。
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左岸より堤体上流面を見る
上流側の堤体も白いですね。また、標高が高いからか空が近いと感じます。
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天端より下流側の洪水吐を見る
地山の都合なのか洪水吐がスロープになっている箇所が2箇所もあって少し面白い構造になっています。
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左岸より堤体下流面を見る
白亜の巨城はどこから見ても美しいですね。
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左岸より天端を見る
天端もキレイで日頃から整備されているのかもしれません。
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天端より下流のウズマク広場を見る
天端から見ると本当に渦を巻いているようにみえる広場です。
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天端のツバメ
この日はなぜか異様にツバメが多く飛んでいて、天端の石灰岩の一部が黒く見えました。
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堤体下流面のツバメ
黒い点のほとんどがツバメです。彼らにとってちょうどいい餌場なのでしょうか。
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再び右岸広場へ
石碑も石灰岩で建てられています。統一感があって良いですね。
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右岸より堤体上流面を見る
ため息が出るほどに美しい堤体にきれいなダム湖。そして天に届くかのような空の近さ。ここは天国か。
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概要パネルと堤体上流面
南相木ダムの概要を解説するパネルのデザインも色々と配慮されているなぁという印象を受けました。あえて巨大なものにせず低く設置したのは堤体がメインだからでしょう。日本語と英語の音声案内もあります。さらにデッキもありいかに「観てもらうためのダム」なのかが分かります。
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トイレと管理所
右岸には無人の管理所とトイレが併設されています。駐車場ももちろん完備。
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右岸ダムサイト
「天空のダム」と言っても過言ではなく、何もかもが規格外の美しさ。ぜひ訪れてみてください。
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南相木ダム諸元
所在地 | 長野県南佐久郡南相木村 |
河川名 | 信濃川水系南相木川 |
目的 | P(発電) |
型式 | R(ロックフィルダム) |
堤高 | 136m |
堤頂長 | 444m |
堤体積 | 7,300,000㎥ |
流域面積 | 6.2km2 |
湛水面積 | 59ha |
総貯水容量 | 19,170,000㎥ |
有効貯水容量 | 12,670,000㎥ |
ダム事業者 | 東京電力リニューアブルパワー株式会社 |
本体施工者 | 前田建設工業・大成建設・大林組・青木建設 |
着手年 | 1995年 |
竣工年 | 2005年 |
ダム湖名 | 奥三川湖 (おくみかわこ) |
その他の設備/所感
駐車場 | ○ |
トイレ | ○ |
公園 | ○ |
PR展示館 | × |
釣り | × |
展望台 | × |
南相木ダム周辺の地図
南相木ダム周辺の天気
南相木ダムに近いと思われる宿泊施設
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