取材日:2012/03/31(土)
大滝ダムは1962年に着工を開始しますが、完成間近の2003年の試験湛水中に上流の地域で亀裂が見つかり試験湛水が中断。完成が延期する事態となったダムです。試験湛水自体はダム本体や周辺に異常がないかを確認するためのものですから、竣工前に異常が見つかって良かったとすべきところなのですが、それによって批判に晒されたかわいそうなダムです。
誤った内容で報道されることも多く、特にNテレビのBという番組はおかしかったという記憶が蘇ります。
そんな大滝ダムが2012年の3月31日、試験放流をおこなうというのでやってまいりました。
左岸よりダム湖側の堤体を望む
試験放流ですから当然水位は満水状態。
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左岸よりダム湖側のクレストゲートを望む
この姿は生きている間ではもう見ることができないかもしれません。
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左岸より選択取水設備を望む
大滝ダムの選択取水設備は円形多段式ゲートで、ワイヤードラムなどの機械は堤体内に格納されているようです。そのため上部に建屋がなく、見た目がかなりすっきりしています。
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左岸よりクロベノエキの望む
クロベノエキとは大滝ダム建設時に使用されたケーブルクレーンのことで、元々黒部ダム(富山)で利用されていたものを、転用・改造されたものだそうです。そして鉄道になぞらえて大滝ダムと黒部ダムをつなぐ駅ということでこの名がつけられたんだそうです。
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ケーブルクレーン
そんなクロベノエキに役目を終えたケーブルクレーンが止まっています。
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左岸より下流側の堤体を望む
重厚感のある堤体です。クレストゲートに4門、コンジットゲートに3門を備えています。堤体壁面のアーチ状のデザインは地元の方々の意見を取り入れたのだそうです。
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左岸のフーチングを望む
フーチングは見た目では降りられるように見えますが、自由には降りられませんでした。
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あと、この撮影場所でカメラのレンズフードを落としてしまったのを思い出しました。拾うことはせず諦めましたが、皆さんも気をつけましょう。
左岸の擁壁
管理所でラミネートカードがもらえるという話を聞き、一旦左岸での撮影を終えて、管理所に向かいます。向かう途中に左岸の擁壁を見ますが、堤体同様にアーチ状にブロックが組まれた変わった擁壁です。
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左岸より天端を望む
とても広い天端です。堤頂長も315mと比較的長いため対岸がかなり遠くに感じます。
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天端より下流を望む
利水放流設備だと放流量が少ない、でも常用洪水吐だと多すぎる…そんな悩みを解決するべく登場したのが「計画水位維持放流設備」なんだそうですが、その減勢工として設置されたのが、右岸下流側に設置されたカスケード式の減勢工です。まさに滝のような構造で、こんな構造物は恐らく大滝ダムにしかないでしょう。
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樫尾発電所大滝堰堤脇の取水口
大滝ダムの下流には大滝堰堤という取水堰堤(写真の右にちらっと写っている越流堤がそれ)がありますが、ここで取水された水は暗渠と開渠を通って下流にある樫尾発電所で利用されます。
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師匠とその愛車
下流側の右岸で師匠とその愛車を発見。もう永遠に見ることが叶わないショットです。
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天端より下流を望む
ちょっとこの写真からは見えにくいですが、大滝ダムのクレストゲートは油圧で動いています。ほとんどのダムではイニシャルコストが安いワイヤーロープ式が採用されていますが、大滝ダムでは見た目がすっきりする景観上の観点と、ランニングコストの面から日本で初めて油圧シリンダー方式が採用されたのです。
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右岸より下流側の堤体を望む
右岸の管理所の駐車場から堤体を見ます。もうちょっと下流に移動したほうが見栄えが良いかもですね。
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ダム管理所
やっと管理所に到着。ラミネートカードを無事いただきました。
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ダムの中みちへ続く階段
左岸に戻り、下流の広場「ダイナミック広場」に向かうため、堤体内の通路「ダムの中みち」へ向かいます。ちなみにこの時点で傘を2本壊してしまい、ダム愛好家仲間に1本もらって向かうのでした。
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ダムの中みち
「ダムの中みち」はトンネルのような監査廊ではなく、下流面の外部に面した通路になっています。
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エレベーター内
ダムの中みちを突き当たりまで進み、その先にあるエレベーターを使って下流のダイナミック広場まで降ります。
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左岸のダイナミック広場よりコンジット部分を望む
エレベーターを降り、通路を突き当たって外に出ると大きな堤体が目の前に広がります。こんな目の前にコンジットが見られるのです。
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左岸のダイナミック広場よりクレストゲートを望む
当然見上げるとクレストゲートを仰ぎ見ることになるわけですが、もう圧巻としか言いようがありません。
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左岸のダイナミック広場より右岸にあるカスケード減勢工を望む
カスケード減勢工も目の前に見ることができます。
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左岸のダイナミック広場よりクレストゲートを望む
クレストからの放流が始まりました。雨が酷く、さらに放流による風圧で撮影は困難を極めます。ちなみに大滝ダムの点検放流はクレストゲート1門ずつ放流するスタイルでした。
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ダイナミック広場へのダム内の通路
ですが、あまりに風雨が強すぎて、ダム愛好家ですら堤体内の通路に避難する始末。ダム愛好家が下流直下での点検放流の見学を諦めるなんて前代未聞です。
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かわいらしいパンフレット用の重し
ダイナミック広場での見学を諦め、来た道を戻ります。写真はダムの中みちの途中に置いてあったパンフレットとその重し。
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天端よりダム湖を望む
雨は酷くなるばかり…
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左岸より下流側の堤体を望む
みんなで学べる防災ステーションに移動することになりました。その途中でパチリ。
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防災ステーション内
防災ステーションの中に入ります。いろんな展示物があって飽きません。
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防災ステーション内の大滝ダムの模型
確かうごく模型だったような…
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防災ステーション内のジオラマ
こんな大掛かりなジオラマ模型なのです。
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左岸の東屋より下流側の堤体を望む
防災ステーションでは、みんなで豪雨体験したりしました。その後は左岸の東屋に移動して堤体を見ます。
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関西電力大滝発電所
堤体とは反対の方向を見ると、関西電力の大滝発電所が見られます。
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左岸の東屋よりコンジットゲート上のデフレクターを望む
デフレクターのはたらきがよく分かる写真かと思います。
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左岸の東屋よりクレストゲートを望む
真正面ではありませんが、クレスゲートがしっかりと望めます。
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1962年から建設が開始され、地すべりの危険性があるとのことで一時建設が中断し、2012年にようやく竣工した大滝ダム。頻繁に大雨が降る紀伊半島の紀の川(吉野川)の治水の要として、現在では活躍する勇姿を見ることができます。無事に竣工できて本当に良かったと思います。
津風呂ダム諸元
所在地 | 奈良県吉野郡川上村大字大滝 |
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河川名 | 紀の川水系紀の川 |
目的 | F(洪水調節、農地防災) N(不特定用水、河川維持用水) W(上水道用水) I(工業用水) P(発電) |
型式 | G(重力式コンクリートダム) |
堤高 | 100m |
堤頂長 | 315m |
堤体積 | 1,034,000m3 |
流域面積 | 258km2 |
湛水面積 | 251ha |
総貯水容量 | 84,000,000m3 |
有効貯水容量 | 76,000,000m3 |
ダム事業者 | 近畿地方整備局 |
本体施工者 | 熊谷組・日本国土開発・大豊建設 |
着手年 | 1962年 |
竣工年 | 2012年 |
ダム湖名 | おおたき龍神湖 |
大滝ダム周辺の地図
その他の設備/所感
直轄ダムということもあり、かなり整備されたダムです。公園についてはいわゆる子ども向けの公園というわけではありませんが、クロベノエキや防災ステーションなど全体で見て公園的な要素を備えていると判断して△としました。
駐車場 | ○ |
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トイレ | ○ |
公園 | △ |
PR展示館 | ○ |
釣り | ○ |
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