取材日:2014/3/2(日)
四国でずっと気になっているダムのうちの1つがこの長安口ダムでした。中国の「長安」っぽい字面からつい「ちょうあんこう」と読んでしまいそうですが「ながやすぐち」が正解になります。長安(ながやす)とは地名でその入口に建設されることから長安口と名付けられたそうです。
なお、本記事では2014年当時のものとなりますが、今では改造事業により堤体は大きく様変わりしています。記事を読んで往時を偲んで?いただければ幸いです。
ビーバー館(長安口ダム資料館)
大美谷ダムから移動していますので上流からアプローチすることになります。堤体の手前には資料館があるので立ち寄ります。資料館の看板には「徳島県企業局」の文字が書かれています。長安口ダムはもともとは県営のダムでしたが、度重なる洪水や渇水に悩まされる地域でもあり、それに対処するべく2007年(平成19年)に国土交通省に管理が移行されています。
この資料館は県営の頃からあるのですが、県営ダムの資料館ということ自体が珍しいですし、しかも直轄ダムとなった今でも引き続き企業局によって管理運営されている点で、徳島県としてはいかにこのダムが重要なのかを伝えたいという気概を感じさせます。
長安口ダム資料館内部
資料館の中にはジオラマなどダムについて学べる展示がいくつかありました。
資料館から堤体上流面の方向を見る
資料館の駐車場から貯水池越しに堤体の方を見ています。左側にあるグレーの建物が管理所でその奥に隠れるかのようにして堤体があります。右側は改修工事のために設置された仮設構台とクレーンです。
長安1号トンネルと長安口ダム入口
資料館を出て少し南下するとトンネルがあり、それを抜けるとすぐに長安口ダムがあります。ただ資料館から湖岸を歩く形で堤体にたどり着くこともできます。
左側の水利使用標識の下に「ダム見学の方はお気軽に係員にお申し下さい」と書かれているのが実に嬉しいですね。ただ改修工事真っ只中だったため立入禁止箇所が多く、今回は外から眺めるだけにしました。
長安口ダム概要記録
水利使用標識の左隣には明朝体で書かれた歴史と風格ある銘板が収められています。
長安口ダム改造事業完成予想図
さらにその隣にはイラストで描かれた改造事業の完成予想図が置かれていました。堤体の改造工事が終わった今でも設置されているのかはこれ以降再訪していないため不明ですが、ものすごく味のあるイラストです。
調べてみると羽尻利門(ハジリトシカド)さんという徳島県阿南市在住の絵本作家さんによるものだそうです。このイラストはぜひ家に飾ってみたいですね。
管理所や取水口
左岸の狭いエリアに管理所や取水口などがひしめき合って建てられています。ここで取水された水は下流の徳島県企業局の日野谷発電所にて最大62,000kWの発電を行います。ちなみに上流の小見野々ダムの貯水池を上池として蔭平発電所にて最大46,500kWの揚水発電も行っています。
左岸より天端とゲートピアを見る
改造工事に伴って天端の管理橋も新しいものに架け替えられたようです。ゲート巻き上げ機室への階段や手すりが緑色や黄色なのはどことなく隣県の高知県企業局の杉田ダムや吉野ダムを彷彿とさせますね。
左岸より堤体下流面を見る
長安口ダムは建設当時、1950年(昭和25年)のジェーン台風による9,000㎥/sという洪水量を基準に対応できるように計画されていましたが、2014年(平成26年)8月(台風11号)には戦後最大となる9,500㎥/sもの洪水量を記録します。逆に1995年(平成7年)以降ほぼ毎年のように取水制限を行うほど渇水にあえぐ地域でもあります。さらに長安口ダムの貯水池では堆砂が進行しており、有効貯水容量の減少にともなうダム機能の低下も懸念される事態となっていました。
そこで改造事業に着手するわけですが、事業の主な内容としては以下の4点。
・ 貯水池容量配分の変更【洪水調節機能、不特定容量の増強及び保全】
長安口ダム改造事業事業再評価 平成28年11月24日 国土交通省四国地方整備局 資料より
・ 洪水吐の増設、減勢工の改造【洪水調節機能の増強】
・ 選択取水設備の設置【不特定用水の補給、濁水放流の改善】
・ 堆砂除去設備の新設、追立(おったち)ダムの活用【戦略的堆砂管理の導入】
堤体へは右岸の非越流部に幅約10m、高さ約30mを2箇所切削してクレストゲート2門を増築するという大工事です。しかもダムを運用しながら行うのは本邦初の工事だったそうです。
ちょうどこの時は既設のゲートも補修を行っていました。既設ゲート補修も改造事業の一端を担っています。
ぼくたちはこの改造事業を「魔改造」と呼んでいましたが、これは揶揄や皮肉などでは決してなく親しみや愛情?というかネタ表現でもあったものの、地元としてはそれはもう生命や財産が掛かっているわけですから必死ですよね。
堤体下流面を見る
今では右岸にゲートが2門も新設され減勢工も下の写真とは大幅に変わっていますので、まったくと言っていいほど雰囲気が変わってしまっているかと思います。魔改造後もぜひとも再訪したい長安口ダムでした。
長安口ダム諸元
※ 堤頂長・有効貯水容量・ダム事業者・本体施工者・着手年・竣工年のカッコ内は改造事業後のものとなります。
所在地 | 徳島県那賀郡那賀町長安22-1 |
河川名 | 那賀川水系那賀川 |
目的 | F(洪水調節、農地防災) N(不特定用水、河川維持用水) P(発電) |
型式 | G(重力式コンクリートダム) |
堤高 | 85.5m |
堤頂長 | 200m(200.7m) |
堤体積 | 283,000㎥ |
流域面積 | 538.9km2(直接:494.3km2、間接:45km2) |
湛水面積 | 224ha |
総貯水容量 | 54,278,000㎥ |
有効貯水容量 | 43,497,000㎥(36,800,000㎥) |
ダム事業者 | 徳島県(四国地方整備局) |
本体施工者 | 鹿島建設(鹿島建設・日立造船・IHIインフラシステム) |
着手年 | 1950年(1998年) |
竣工年 | 1955年(2028年) |
ダム湖名 | 長安口貯水池 (ながやすぐちちょすいち) |
その他設備/諸元
駐車場 | ○ |
トイレ | ○ |
公園 | × |
PR展示館 | ○ |
釣り | ○(禁漁区を除く) |
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